空と君のあいだに

研究と教育と日々の,思考整理の場

星図観察

本校の土曜3,4限では「教養総合」と銘打った選択講座を高校1,2年生対象に開講している.1,2学期は特殊相対論の講座を開いたのだが,3学期は社会科教諭と組んで天文学史の講座に取り組んでいる.昨日の土曜がその初回.

初回ということで,それぞれの教員がガイダンス的な話をしただけで終えたわけだが,自分が話す番ではない方で久しぶりに「先生の話」を聞くとタメになる部分が多いですね.話しのテンポとか.もちろん,内容も充実していましたよ.以下,自分向けの要約.

アリストテレスの登場まで

古代の学者は世界をなんでも同じ理屈で説明しようとした(例えば,音楽と物理).当初,それは全て神の仕業として理解されており,例えば人間同士の仲が悪いのはその守護霊同士の仲が悪いからだというように解されていた.ところが,人間世界のことは人間にも理解できるのではないかというわけで自然哲学が登場する.その探求に取り組む人々はどのような背景で登場したのか.答えはポリスにある.ポリスの市民は直接民主制で政治に取り組んでいたが,ここでいう市民は「貴族のみ」「有産市民」「無産市民」と時代を追うごとに広く捉えられるようになる*1.ここで,無産市民が市民権を持つと,学者は教養のない?彼ら向けに弁論術の家庭教師を勤めるなど功利的な方面へ走ることになる.そんな中,再び自然探求を重視したのがソクラテス.その姿勢はプラトンアリストテレスへと引き継がれ,後の学問への伏線がしかれる.

プトレマイオスの登場まで

ところで,多くの思想家を生みだしたアテネペロポネソス戦争を機に衰退を始める.そこで,台頭したのがマケドニアアレクサンドロスの遠征によりペルシア文化とギリシア風の文化が融合する.そうなると,神を前提に物事を考える思想家は困ったことになる.ギリシアの神を念頭に自然現象を解釈していたのだが,そこにゾロアスター教という「わけのわからない」宗教が入りこむのだから.ただ,その中においてでも,姿勢のぶれなかった集団がいる.それが自然哲学者やその後継にあたるソクラテス一派.多様化の進む世界にあって彼らは「ポリスのため」ではなく「自分のため」に学問を志すことになり,その風潮が古代ギリシアにおける天文学の大家,プトレマイオスを生む土壌を与えることになる.

事前打ち合わせの通り,古代の宇宙観形成で大きな役割を果たしたアリストテレスプトレマイオスに伏線を張ってもらうためにヘレニズムを概説して貰った.次回以降,中世や現代科学に彼らがどのように繋がっていくか話を展開する予定.

ところで,私の担当分講義の方はというと,DSSから取得したパロマーチャートで10枚程度でオリオン座を作って貰い,星の数を数えさせてみた.1つのパロマーチャートの一辺は6.5度で,20等星まで写っているらしい.実は星の数自体を数えさせることは主眼ではなく,本当の狙いはそこに注目することで分角,ないし秒角のスケール感覚を磨いて貰うこと.大体,撮像された星同士の感覚が数十秒角なのです.これが分かれば,年周視差の1秒角がどれぐらいか,当時の測定精度がどんなものか,当時の望遠鏡でどこまで分解できるか分かるようになるかなと.

以上に加えて,相対運動を観測しただけでは観測者が動くか観察対象が動くか区別できないよねという話もちょこっと.天動説か地動説かの議論においては,もちろん天体運動を測定することが解決の鍵になるのですが,相対運動を見ただけでは区別ができないので「それ以外の証拠」が必要になるわけです.それをこれから議論するよという予告なようなものでした.

全体的に寝る生徒もなく,概ね好評だったようですが,個人的には本当は普段からこんな授業をせねばならんのだなぁと反省反面でもありました.まぁ選択講座だからモチベーション高い生徒が集めってるからこそできる授業ではあるのですが.高校の授業はこれが難しいですね.

*1:有産市民の台頭は重装歩兵としての活躍,無産市民の台頭はペルシア戦争での三段櫂船での活躍がきっかけてなっているようだ