空と君のあいだに

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イカ東

「いかにもな東大生」を略して「イカ東」と呼ぶらしい.
イカ東(いかとう) - 日本語俗語辞書
この単語を知ったのは学部生から修士の院生だった頃だと思う.最近,オーケストラの活動を本格的に再開しつつあるのだが,これをきっかけにこの言葉を再び意識しつつある.

最近,新しいオーケストラを立ち上げて演奏会に向けて練習している.このオーケストラの団員には東大の学生・OB/OGが多い.自分も含め,何かにつけてソツなくうまくまとめるなぁと思う.一方で,遊び心などが足りないように感じることがしばしばである.各人で理想は持てているのかもしれないが,それを達成する方策に不器用さが残るとでも言えば良いだろうか.舞台上で感じる自分と,それを観た観衆の抱く印象は一致しないもので,例えば思い切りなんかが役者には要求されるのだろうけど,それが足りないような場面をしばしば見る.20代前半の団員が多い関係で,30目前の自分としては過去の自分を彼らに投影しているのかもしれない*1

話は変わるが,昨日,東大オケ定期演奏会を聴きに行った.仕事の都合でメイン曲(フランクの交響曲)にしか間に合わなかったのだが,ここにも「イカ東」を感じた.もちろん,演奏は安定しており,管楽器のソロや弦楽器の弱奏部は安心して聴け,曲をしっかりと分析した精緻な,そして期待通りの演奏だった.一方で,僕がフランクに対して抱いていた「悩ましさ」という印象とは少し違ったものを感じた.語彙が貧弱なものでうまく書けないのだが,既に「答え」が出ているような演奏とでも言うのだろうか.曲の構造理解に少し偏っていて冷静過ぎる,個人的な印象としては「いかにも東大生」的な演奏だったと思った.もちろん,以上は僕のフランクに対する感性であり,彼らの解釈とそもそも違う可能性もある*2.だけど,ここ最近の自分の思考を踏まえるとここにも「イカ東」を感じてしまったのである.これも過去の自分を東大オケに投影しているだけかもしれないけど*3

いずれにせよ,過去の自分は窮屈な人間だったなと感じるこの頃である.

*1:10年後にこの発言を見たら何言ってるんだと思うこと必須なのだけど.

*2:プログラムノートを読むと,団員はフランクをドイツ音楽とフランス音楽のハイブリッドと捉えているようなので(要約),宗教的な苦悩を含んだ内省的な音楽と捉えた自分と齟齬があったことは十分考えられる.

*3:本筋とは離れるが,アンコールのマメールロワは素晴らしかった.全てが終わって伸び伸び弾いていた.アンコールなので全体練習はごくわずかだったかもしれない.だけど,東大オケの場合はそもそも技量の土台がしっかりしているので,フランス音楽に取り組むときは練習のしすぎで「分かった気」になるよりは,練習回数を絞った上でノリに任せるのもまた面白いのではないかと考える.そういうリスクを取らないで練習回数を確保するのが安全なのは理解できるが.