空と君のあいだに

研究と教育と日々の,思考整理の場

しんぷるいずべすと?

複雑怪奇な現象を簡潔に説明できると美しく感じる.もっともなことだ.だけど,簡潔に説明できたことは,簡潔に説明できることを目的としたがゆえの結果かもしれない.

高校時代に物理の美しさに惹かれて数物系に進んで今に至る.基礎方程式を積分すると保存量が現れ,系の挙動をきれいに説明できる.確かに簡潔で美しい.しかし,きれいに説明できる系しか扱っていないが故のバイアスが入りこんでいる可能性も否定できない.いわゆる文系の諸君の中には,この「美しさ」を理解できないことに負い目を感じる者もいるかもしれない.しかし,これは当人にとって本質的ではない.

世の中,基礎方程式で説明できない複雑な現象の方が数多い.考えようによってはその面白みに気づける方が鋭い感覚を持っていると言えるのではないか.高校の「理系科目」の美しさは「分かりやすさ」を優先した結果でしかないとも捉えられる.その「美しさ」を理解できなくたって気にしなくて良い.「美しい世界」はありのままの世界ではないとも言えるのだから*1.むしろ,僕からすれば,分かりやすさに騙されず,高校時代から人文社会系の学問に面白みを感じられる人にどこか羨ましさを覚える.

*1:多くの系で摩擦力がゼロの極限を考えるが,むしろ様々なパラメータに摩擦力が依存してしまうのが現実世界なので.もちろん,その極限はそこそこに現実世界を説明できるけど,逆に言えば説明できない部分もある.